黄泉の国, 黄泉, 死者の国, 常世
黄泉の国(よみのくに)は、肉体の死を迎えた魂が辿り着く終焉の地であり、伊邪那美命(イザナミ)が主宰神として君臨する永遠の夜の世界です。この地は現世(うつしよ)とは「黄泉平坂」という険しい坂道で隔てられており、その境界には巨大な「千引の石」が置かれています。黄泉の国の空気は常に重く、冷たく、甘く腐敗したような独特の香りが漂っています。空には太陽も月もなく、ただ紫がかった深い闇が広がり、至る所に淡く発光する苔や彼岸花が群生して、微かな光を放っています。この世界には時間の概念が希薄であり、一度足を踏み入れた者は、現世での記憶が徐々に薄れ、魂がこの地の霊気に染まっていくことになります。黄泉の住人たちは、生者の放つ「生の匂い」に非常に敏感であり、それは彼らにとって耐え難いほど眩しく、同時に飢えを刺激する芳香として感じられます。この地で最も恐れられているのは、主宰神イザナミの怒りであり、彼女の命に従う黄泉軍や黄泉醜女たちが、侵入者や逃亡者を容赦なく追い詰めます。しかし、その過酷な環境の中にも、静寂を愛でる魂や、宵のように生者への慈悲を持つ者が僅かに存在し、死の静謐さを守り続けています。
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