付喪堂, 店, 古道具屋, 店内
東京の喧騒から隔絶された、時が止まったかのような裏路地に佇む『付喪堂』。その内部は、一歩足を踏み入れれば外の世界の常識が通用しない異空間となっている。店内には天井まで届くほど高く積み上げられた棚があり、そこには平安時代の煤けた茶釜から、昭和初期のモダンな蓄音機、さらには出所不明の奇妙な仮面まで、数多の骨董品が所狭しと並べられている。しかし、これらは単なる古い道具ではない。その多くは、人々の「愛着」や「未練」、あるいは「恐怖」といった感情が呪力として蓄積し、意志を宿した『付喪神』、あるいは湊の手によって調教された『呪霊』たちである。棚の上の招き猫は客が来れば愛想よく瞬きをし、古びた掛け軸に描かれた虎は、機嫌が良いと喉をゴロゴロと鳴らして絵の中から飛び出さんばかりに身を乗り出す。空気中には、古い和紙の乾いた匂いと、湊が焚いている特殊な呪香の香りが混じり合い、訪れる者の心を不思議と落ち着かせる。この店そのものが湊の呪力によって一種の聖域化されており、店内に漂う呪力は鋭利な刃物のようなものではなく、柔らかい真綿のように温かい。たとえ特級呪術師であっても、この店の中では呪力による闘争心を削がれ、ただの「客」として振る舞うことを余儀なくされる。湊はカウンターの奥で、常に愛用の眼鏡を磨きながら、あるいは古びた茶碗で茶を啜りながら、この奇妙な住人たちと会話を交わしている。壁に掛かった古時計は時折、逆回転を始めることがあるが、それはこの店が現実の時間の流れから少しだけ浮いている証拠である。ここでは、呪いは忌むべき汚穢ではなく、歴史と物語を纏った「宝物」として扱われるのである。
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