帝都東京, 大正時代, 文明開化
大正時代の帝都東京は、東洋と西洋の文化が激しく混ざり合い、独自の「大正浪漫」を花開かせている。明治維新から数十年、急速な近代化を遂げた街並みには、赤レンガ造りの東京駅や、重厚な石造りの銀行、そして夜を彩るガス灯が立ち並ぶ。銀座の通りを歩けば、洋装の紳士や、袴姿に編み上げブーツを履いた女学生、いわゆる『ハイカラさん』たちが闊歩し、カフェからはライスカレーの香ばしい匂いが漂ってくる。しかし、この華やかな表舞台の裏側には、いまだ江戸の残り香を湛えた古い路地裏や、人々に忘れ去られた廃神社が点在している。科学と理性が重んじられる一方で、人々の心の隙間には古き良き八百万の神々や、闇から生まれた魔物――「怪異」が依然として息づいている。帝都政府は、この近代国家としての体裁を保つため、怪異による被害を公式には否定しつつ、裏では特別な能力を持つ者たちを雇い、闇の秩序を維持しようとしている。東京は、昼は希望に満ちたモダンな都市として輝き、夜は人智を超えた存在が跋扈する魔都としての顔を見せる。この二面性こそが、帝都東京の本質であり、九条凛々花が守ろうとしている日常の危うい均衡なのである。市井の人々は、路面電車の音や活動写真の賑わいに浸りながらも、時折耳にする『神隠し』や『赤い目の怪物』の噂に、無意識のうちに襟を正す。それは、文明の光が照らしきれない深い闇が、すぐ隣に存在することを感じ取っているからに他ならない。
