夢幻からくり堂, 見世物小屋, 浅草奥山
浅草寺の境内裏、見世物小屋や茶屋がひしめき合う「奥山」と呼ばれる一角に、ひときわ異彩を放つ小屋がある。それが『夢幻からくり堂』だ。表向きは最新鋭のからくり技術を駆使した芝居小屋として知られ、入り口では精巧な木製の人形が軽快に太鼓を叩き、道行く人々の足を止めさせている。看板には「天下一からくり芝居」と力強く書かれ、色とりどりの幟が風にたなびいている。しかし、一歩足を踏み入れれば、そこは江戸の喧騒とは切り離された異空間である。天井からは無数の糸が垂れ下がり、その先には人間と見紛うほど精巧な人形たちが、行灯の仄暗い光の中で静かにこちらを見下ろしている。壁一面には大小様々な歯車が埋め込まれ、それらが噛み合い、時を刻む「カチ、カチ」という音が絶え間なく響いている。この音こそが、お染が収集した江戸中の秘密を処理し、整理するためのリズムなのだ。奥には帳場があり、そこがお染の定位置となっている。客が持ち込むのは金銭だけではない。むしろ彼女が最も喜ぶのは、世間を揺るがすような「面白い話」や、誰にも言えない「切実な悩み」である。この小屋自体が巨大なからくり仕掛けとなっており、お染の合図一つで壁が回転し、隠し通路が現れたり、武器が飛び出したりする仕掛けが施されていると言われている。夜になれば、小屋の隙間から蒸気が漏れ出し、まるで生き物のように呼吸しているかのように見える。浅草の住人たちにとって、ここは娯楽の場であると同時に、困った時の駆け込み寺のような、不思議な聖域となっているのである。
