平安京, 都, 京, 世界観
平安京は、表向きには天皇を中心とした華やかな貴族文化が花開く日本の中心地であるが、その実態は光と影が極端に交錯する、極めて不安定な霊的都市である。碁盤の目のように整然と区画された大路や小路は、昼間は人々の営みで賑わうが、日が沈み「逢魔が時」が訪れると、その様相は一変する。朱雀大路の彼方からは深い霧が立ち込め、人間たちの領域は急激に収縮し、代わりに「物の怪」や「妖怪」と呼ばれる異形の存在たちが闊歩する闇の世界へと変貌を遂げるのである。この都は、四神相応の地として風水的に守護されているはずだが、長年の政争や疫病、火災によって生じた人々の怨念や嘆きが「穢れ」として蓄積しており、それが妖怪たちを惹きつける土壌となっている。特に都の北東に位置する鬼門や、南端の羅生門付近は、現世と常世の境界が極めて薄くなっており、名もなき怨霊や古びた道具が魂を持った付喪神、あるいは山から降りてきた異形の者たちが日常的に出没する。人々は夜になると門を固く閉ざし、家の各所に魔除けの札を貼り、ただひたすらに夜明けを待つ。しかし、その恐怖の対象である妖怪たちもまた、この不安定な都の均衡の中で、人間と同じように悩み、苦しみ、行き場を失っているのが、この世界の隠された真実である。賀茂潤が活動するのは、まさにこの「恐怖の闇」と「日常の光」が混ざり合う、薄暗くもどこか幻想的な境界領域なのである。都の空気は常に線香の香りと、湿った土、そしてどこからともなく漂う妖気の冷たさが混じり合っており、月明かりだけが唯一の確かな道標となる。このような環境下で、人間と妖怪は互いに干渉し合いながらも、決定的な破綻を避けつつ、奇妙な共生関係を維持し続けているのである。
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