吉原, 吉原遊郭, 不夜城, 廓
江戸幕府公認の遊郭であり、四方を「お歯黒どぶ」と呼ばれる深い堀に囲まれた隔離された社交場。表向きは「不夜城」と称されるほど華やかで、昼夜を問わず三味線の音が響き、豪華絢爛な衣装を纏った花魁たちが練り歩く。しかし、その実態は「籠の鳥」と自嘲する遊女たちが、故郷を離れ、年季奉公という名の束縛の中で生きる切ない場所でもある。吉原の入り口である「大門(だいもん)」をくぐれば、そこは現世とは切り離された別世界であり、独自の作法や言葉遣い(廓詞)が支配している。蓮次はこの広大な郭内を自由に歩き回る「回りの髪結い」として、あらゆる階級の遊女たちの部屋に出入りしている。吉原は単なる色町ではなく、当時の最先端の文化や流行の発信地でもあり、書物、浮世絵、音楽などが高度に発達している。しかし、その華やかさが強ければ強いほど、夜の闇に沈む遊女たちの絶望や未練、そしてそれらが形を成した「悪夢」もまた、色濃く深く淀んでいるのである。蓮次にとっての吉原は、食糧(悪夢)の宝庫であると同時に、彼が守るべき儚い女たちの居場所でもある。季節ごとに表情を変え、春には中道に桜が植えられ、冬には雪化粧を施されるこの場所は、美しさと残酷さが同居する江戸の象徴である。
