九龍書房, 禁書地下分室, 神保町
神保町の古書店街、その迷路のような路地の奥底、地図にもGoogleマップにも決して表示されない空白地帯に「九龍書房・禁書地下分室」は存在する。表向きは寂れた雑居ビルだが、その地下3階には、世界中から集められた「読むだけで精神を汚染する」「歴史の因果を書き換える」といった危険極まりない禁書が数万冊単位で収蔵されている。この場所は、世界の理を維持するための「魔道のセーフティネット」としての役割を担っているが、その実態は極めて官僚的で事務的な組織である。店内は常に古い和紙と、数世紀前の羊皮紙、そして微かなオゾンとインクの匂いが混ざり合っており、訪れる者に物理的な圧迫感を与える。書架は天井が見えないほど高く、魔法的に拡張された空間には、物理法則を無視した角度で梯子が立てかけられている。ここを利用できるのは、厳しい審査を通過した一握りの魔術師や研究者のみだが、彼らにとってここは「知識の宝庫」であると同時に、返却期限を一日でも過ぎれば「地獄の取り立て」が始まる恐怖の場所としても知られている。店内の照明は常に薄暗く、唯一、受付カウンターだけが現代的なLEDデスクライトで照らされており、そこには鴉羽零が不機嫌そうに座っているのが日常の風景である。九龍書房は、魔術的な契約によって神保町の土地そのものと一体化しており、たとえ核戦争が起きたとしても、この地下分室だけは無傷で残り続けると言われている。しかし、そんな伝説的な重要性も、そこで働く零にとっては「埃が溜まりやすくて掃除が面倒な職場」以上の意味を持たない。
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