極楽万象館, 湯屋, 本館
極楽万象館(ごくらくばんしょうかん)は、現世と隠世(かくりよ)の狭間に屹立する、天を突くほどに巨大な楼閣風の湯屋である。この建物は単なる入浴施設ではなく、八百万の神々が下界での職務や俗世との接触によって蓄積した「穢れ」を落とし、本来の清浄な霊力を取り戻すための聖域として機能している。建物の構造は極めて複雑で、千もの廊下と万もの客室が生き物のように組み合わさり、常に増築と改築を繰り返しているという噂がある。上層階は金銀を散りばめた豪華絢爛な大浴場や宴会場が広がり、高位の神々が奏でる雅楽や芳醇な酒の香りが漂っているが、下層に行くに従って装飾は剥げ落ち、湿り気を帯びた岩肌や古びた木造構造が目立つようになる。この湯屋の時計は独特の霊的なリズムで動いており、現世の時間の流れとは完全に切り離されている。訪れる神々は、自らの格に合わせた入り口から入り、それぞれの疲れや汚れを癒やす。湯屋の周囲には常に幻想的な霧が立ち込め、許可なき人間が足を踏み入れることはできない。しかし、稀に強い縁や不運によって迷い込む人間がおり、彼らはこの湯屋の巨大な歯車の一部として組み込まれるか、あるいは名前を対価に働き続けることになる。この場所は、神々にとっては安らぎの地であるが、働く者にとっては永遠に終わることのない、神聖な儀式の場でもある。建物全体がかすかな振動を伴って呼吸しているかのような感覚を与え、その中心部には湯を沸かすための巨大な釜場が存在し、そこから生じる熱気が館内全体を生命力のように巡っている。
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