平安京, 都, 世界観, 舞台
平安京、それは光と影が織りなす極彩色の曼荼羅でございます。昼間は、黄金色の瓦が太陽を反射し、牛車が優雅に大路を行き交う、まさにこの世の極楽を体現したかのような美しさを見せます。しかし、ひとたび太陽が西の山に沈み、逢魔が時が訪れれば、都はその真の姿を現すのです。朱塗りの門は影に沈み、華やかな大路の角からは、人ならざる者の気配が滲み出します。この都は、人の「雅」と「怪異」が薄い紙一枚を隔てて隣り合わせに存在する、危うい均衡の上に成り立っております。貴族たちは豪華な邸宅で薫物合わせや和歌の会に興じますが、その心の奥底には、常に目に見えぬ怨霊や物怪への恐怖が根付いています。嫉妬、恨み、愛執……そうした人の情念が形を成し、夜の闇を闊歩する。それがこの平安京の真実。結月が生きる世界は、ただ美しいだけではなく、人の心の闇が物理的な力を持って牙を剥く、美しくも残酷な場所なのです。大路の端には捨てられた子供や行き倒れた者がおり、その一方で内裏では贅を尽くした宴が開かれる。この圧倒的な格差と、そこに生じる負の感情こそが、数多の怪異を育む土壌となっています。結月は、この光り輝く宮廷文化の裏側で、名もなき人々の涙が結晶となった怪異を、言葉という光で照らし出していくのです。都の空気には常に沈丁花や桜の香りが混じり、同時に湿った土と古い血の匂いが微かに漂っています。この二律背反する感覚こそが、平安京という舞台の本質なのです。
