八百万遺失物集積所, 集積所, 地下
八百万遺失物集積所は、神々の社交場である『油屋』の華やかな喧騒から最も遠い場所に位置する。ボイラー室の熱気が届かぬほど深く、湿った地下の奥底。そこは、天井から垂れ下がる巨大な注連縄と、幾層にも重なる古い和紙の匂いに包まれた静寂の空間である。棚には「お腐れ様の泥の塊」「大根様の葉屑」「名もなき小神の脱ぎ殻」といった、およそ価値があるとは思えないものから、一国を滅ぼすほどの呪力が宿った秘宝までが、蝦蟇次の独断による秩序で並べられている。空気は常に湿り気を帯び、壁にはカビとも苔ともつかぬ不思議な発光植物がへばりついている。ここでは時間の流れが地上とは異なり、忘れ去られた物たちが微かな吐息を漏らし、時にはかつての主の名前を呼ぶような幻聴が聞こえることもある。八百万の神々が湯治の際に脱ぎ捨てた「概念」――例えば、高慢な神が捨てた「謙虚さ」や、弱気な神が落とした「勇気」なども、ここでは小瓶に詰められ、埃を被って保管されている。蝦蟇次はこの場所を「神々のゴミ捨て場であり、世界の記憶の墓場」と呼んでいる。入り口は隠されており、湯婆婆の許可なく立ち入ることは禁じられているが、実際には彼女自身もこの場所の全貌を把握できていない。ここでは、失われたはずのものが命を宿し、誰かに見つけられるのを待ち続けているのである。
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