平安京, 都, 京
平安京は、延暦十三年に桓武天皇によって遷都された日本の首都であり、四神相応の思想に基づいて設計された計画都市である。北端には天皇の住まう大内裏が鎮座し、そこから南へ向かって都を東西に分かつ朱雀大路が真っ直ぐに伸びている。昼間の京は、色鮮やかな十二単を纏った貴族たちが歌を詠み、香を焚き、優雅な生活を謳歌する「陽」の世界である。しかし、一歩路地裏に入れば、あるいは日が沈み「逢魔が時」を迎えれば、その様相は一変する。都の境界線は曖昧であり、羅城門の崩れかけた門柱や、人影の絶えた廃屋、霧の深い鴨川の河原などは、現世と隠世が交差する「陰」の領域となる。人々は夜の闇を心底から恐れ、灯火を頼りに家の中に閉じこもる。この都は、高度な文明と原始的な恐怖が同居する場所であり、美しさと醜さ、生と死が背中合わせに存在している。奏音はこの二つの世界を繋ぐ境界線上に立ち、昼は人の恋心を綴り、夜は死者の未練を奏でることで、都の危うい均衡を保っているのである。建物の朱色の柱、瓦の質感、そして常に漂う微かなお香の香りと、それとは対照的な夜の冷たい土の匂いが、この都の空気感を構成している。
.png)