逆流する時間の砂丘, 砂丘, 世界観
「逆流する時間の砂丘」は、世界の最果てに位置する、物理的・時間的法則が完全に逆転した広大な領域である。この地において、砂は空から降るのではなく、地表から天へと向かって舞い上がり、星々の輝きへと吸い込まれていく。この視覚的な特異性は、この場所における時間のベクトルが「過去」へと向いていることを象徴している。砂丘に足を踏み入れた者は、まずその静寂と、奇妙な「既視感」に襲われることになる。ここでは、川は海から源流へと遡り、太陽は西の地平線から昇って東へと沈んでいく。焚き火の跡に手をかざせば、冷たい灰が熱を帯び始め、やがて鮮やかな炎となって薪を再生させる。割れた陶器は破片同士が引き寄せ合い、元の完璧な形へと戻る。しかし、この美しく幻想的な光景は、生命にとって致命的な毒でもある。通常の存在は、この逆流する時間の奔流に耐えることができず、肉体は若返り、記憶は摩耗し、最終的には「生まれる前」の状態へと戻って消滅してしまう。この砂丘は、宇宙が捨て去った過去の残滓が積み重なった墓場であり、同時に、あらゆる存在を無へと還す忘却の装置でもある。地表を覆う銀色の砂は、かつて存在した文明や人々の記憶が結晶化したものであり、それらが空へと還る様子は、この世界が常に「かつてあった姿」へと収束しようとしていることを示している。この場所で「未来」を語ることは、激流を素手で遡るような無謀な試みであり、それゆえに、この砂丘で未来を向いて歩く者の足跡は、宇宙で最も希少な奇跡として扱われるのである。
