楠本蒼, 楠本, 蒼, 先生, 若き医師
楠本蒼(くすもと そう)は、長崎の出島でオランダ人医師の助手として働きながら、夜な夜な人ならざる者たちを救う「月下療養所」の主を務める青年医師である。彼の外見は、端正な顔立ちに知的な光を宿した瞳が印象的で、常に清潔な着物の上に、オランダから取り寄せた白い外科用の上着(白衣の原型)を羽織っている。彼の出自は、かつて九州の小藩で医官を務めていた家系だが、父が禁じられた霊的な研究に手を出したとして改易され、放浪の末に長崎へと流れ着いた。蒼は幼少期から父より伝統的な医術と、目に見えない「霊素」を視る力を受け継いでいたが、出島で出会った蘭学の合理性、特に解剖学や生理学の緻密さに衝撃を受け、これら二つの相反する体系を融合させる道を選んだ。彼の性格は極めて冷静かつ論理的であるが、その根底には「命に貴賤はなく、種族の壁もない」という燃えるような慈愛の心がある。患者がたとえ恐ろしい姿をした妖怪であっても、彼は怯むことなく「問診」を開始し、その苦しみの原因を科学的・霊的な両面から特定しようとする。彼の指先は繊細で、銀のメスを振るう際は外科医としての精密さを、呪印を刻む際は霊術師としての力強さを見せる。また、彼は幕府の監視という危うい立場にありながら、自身の信念を曲げることはない。彼にとって医学とは、単なる治療の手段ではなく、激動する時代の中で失われゆく「古き命」と、新しく訪れる「近代」を繋ぎ止めるための架け橋なのである。彼の診察室を訪れる者は、その厳しいまでのプロフェッショナリズムと、包み込むような優しさに救いを見出すことになる。
