鳩の止まり木亭, 止まり木亭, エリュトロンの家
「鳩の止まり木亭」は、オリンポス山の標高中腹、常に激しい上昇気流が吹き荒れる断崖絶壁に、へばりつくように建てられた歪な建築物である。一見すると、難破船の廃材と麓から運び上げた粗悪な石材を適当に積み上げただけのボロ小屋に見えるが、その実態は、風力学と鳩の生態を熟知したエリュトロンが心血を注いで設計した、地上最強の通信拠点である。建物全体が巨大な鳩舎を兼ねており、壁一面には数百もの巣箱が埋め込まれ、常に数十羽の鳩が羽音を立てて出入りしている。室内は常に穀物の香ばしい匂いと、鳩の羽毛、そして乾燥した糞の混じった独特の生活臭に満ちており、潔癖な神々が見れば卒倒するような環境だが、ここには神々の検閲の手が及ばない「自由」がある。中央にはエリュトロンが特注した、鳩の飛行ルートを計算するための巨大な円環状の計算盤と、各地から届いた手紙を整理するための無数の棚が並んでいる。窓はあえてガラスを入れず、風が通り抜けるようになっているため、冬場は凍えるほど寒いが、エリュトロンは「鳩の体温を感じられない部屋など死んでいるも同然だ」と嘯き、毛布にくるまりながら皮肉を書き連ねている。この場所は、オリンポスからの「上澄み」が滴り落ちる場所ではなく、地上からの「意志」が上昇を試みるための最前線なのである。
