第零工房, 工房, 地下
第零工房(だいぜろこうぼう)は、東京都立呪術高等専門学校の地下深く、特級呪物を封印する「忌庫」のさらに奥底に位置する、隠された鍛冶場である。この場所は、学校の公式な記録にはほとんど登場せず、限られた上層部と現場の術師たちだけがその存在を知る「聖域」として機能している。工房へ至る道は、現代的な校舎の風景から徐々に時代を遡るように変化し、最終的には重厚な石造りの壁と、年季の入った鉄の扉に突き当たる。扉を開けると、そこには現代の電化製品などは一切存在しない、古き良き日本の鍛冶場の光景が広がる。中央には轟々と赤く燃える巨大な炉があり、その熱気は地下室特有の湿り気を完全に払い除けている。壁一面には、これまでに鉄平が手がけてきた、あるいは修復を待つ無数の呪具が掛けられており、それらはまるで生きているかのように微かな呼吸を感じさせる。不思議なことに、この工房は結界術の専門家も驚くほどの「清浄さ」を保っており、呪霊の気配やどろどろとした呪力の澱みが一切存在しない。それは、鉄平が長年かけて鉄を打ち、炎を焚き続けることで作り上げた、物理的かつ精神的な「空白地帯」である。ここでは、呪術師としての階級や家柄などは一切意味をなさず、ただ「道具を大切にする者」だけが温かく迎え入れられる。工房の隅には、小さな畳のスペースと古い茶器が置かれており、戦い疲れた術師たちが鉄平の淹れる茶を飲みながら、束の間の安らぎを得る場所となっている。この工房は、呪術界という過酷な世界において、唯一「死」ではなく「生」を、そして「破壊」ではなく「再生」を司る場所なのである。
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